9/11/2007

行列のできる店はどこが違うのか




行列のできる店はどこが違うのか/大久保一彦



#1行動の9割は無意識



あらゆるものが成熟した日本の市場において、この差は「商品の違い」でないことは、みんながうすうす感じていると思います。しかし、どうしても商品に固執してしまう。状況が悪くなればなるほどその傾向が強くなります。



味は嗜好性のある要素であり、人それぞれ好みが違います。例えば、塩加減などは生まれ育った環境で違います。生活水準が高く、文化的な生活を送る家庭で育てば、塩加減は穏やかになります。その反対に、夫婦共働きで、時間に追われて生活をすると塩加減が強くなります。なぜならば、サラリーマンやOLのランチタイムは非常に短く、短時間にお腹を満たさねばなりません。おのずと無意識のうちにインパクトのある味を求めるようになるのです。私は、堂々、「貧乏人はタレを飲み、塩を食べ、裕福になって時間を食べる」と言っています。



店というのは売上が上がった時点から本当の商売が始まります。



ラーメン屋で味のインパクトを出す場合、化学調味料を増やすのが常套手段です。人間は舌と体のふたつで塩分を感じます。舌と体です。


しかし、 化学調味料を塩とブレンドするとこのブレーキの利きを甘くするようで、舌で「しょっぱい」と感じるポイントをずらしてしまいます。



インアンドアウトバーガーでは創業以来裏メニューがあったそうですが、もしそうだとするとインアンドアウトバーガーは商売の天才です。


なぜか。まず、メニューをシンプルにすることで生産性を高め、仕入れ効率を高め、高品質のハンバーガーとどこのハンバーガーチェーンよりも高い賃金とを実現しています。おいしさとサービスで評判になる。



売込みを意識させるのとさせないのでは、逆説的なことに、意識させないほうのが良いのです。


「新宿さぼてん」はアルバイト、パートで店を運営しています。したがって、販売スキルは低いです。そこで私は、袋や箱を作ったり、スタンプカードにハンコを押したりと手空きのときの作業を考えました。これによって販売スキルの低いスタッフでもお客さんを店に引き込むことができます。従業員に動きを作ることで、ショーケースの前に立ちやすくなり、売れる環境になるのです。



開放度とはお店が道路に対してどれくらいオープンかを表します。入り口にキュウリやトマトなどの野菜をザルに載せているような八百屋さんは開放度が高いといえます。開放している度合いが高ければ境界線を意識しませんので、お客さんは入りやすいと感じます。


次が透視度です。飲食店などは、一般的に外気を遮断するために八百屋さんのようにはオープンにしません。その場合、入りやすさを出すために、入り口などをガラスにして中が見えるようにします。そうすると入りやすく感じるわけです。どれくらい中が見えるかを透視度といいます。


最後に深度です。お店が奥まっていると一般的に気取った印象を受けます。この奥まっている度合いを深度といいます。料亭などは、塀があって中が見えず、おまけに入り口が奥まってます。ですので、とても入りにくい印象を受けます。逆に、町の八百屋さんは入りやすい印象を受けます。これをうまく調節するとお客さんの無意識に感じる入りやすさをコントロールできるのです。ドラッグストアは入り口にティッシュやトイレットペーパーをおきますね。まるで万引きされそうです。でも、この万引きされそうな環境が大切で、万引きされそうというのはお客さんに境界線を感じさせないのです。



東京の港区の人気のあるレストランでは、「お客様、○と△と□をお選びですと、お二人様では量が多すぎると思います。□を次回のお楽しみとされたらいかがですか?」と、お客さんの注文のしすぎを防いでいます。なぜかというと、料理を残された場合、量が多いことを知らない一見さんの場合、まず、「不親切な店だな」と思われてしまうからです。そして、もうひとつが、無意識にすごしている限りは予算を超えないようにすることによって、お客さんの価格に対する満足度が高まるからです。



売上の構造を説明する時に、「売上=買い上げ単価×客数」という公式を使います。その考え方に従うと、売上を上げるには買い上げ金額を上げるか、客数を増やすしかないことになります。あまりお客さんが増えない成熟の時代、どうしても新規客が増えそうに思えませんから、来店されているお客さんから売上を搾り取ろうとしています。経営者は「なかなか手が伸びないこの商品、買ってくれたらなあ」こんな事を考え勝ち。しかし、これが、より一見さんしか来ない商売にしてしまうわけなのです。


では、単価をアップさせる方法はないのでしょうか?もちろんあります。それは、自分、すなわち店とお客さんの両方を進化させるのです。進化とは、文化の度合い、分かりやすい言葉で言えば価値観の水準の向上です。



人間は幼少から育った環境で、生活習慣や文化を身につけます。



人間は安定を得ると新しい文化を理解するようになることがあります。ですから、私は、無意識のうちに新しい世界に接する機会を積極的につかもうと行動してきました。



文化を創るには自分自身にその文化が必要です。それは文化の階段を上がるには、道案内するガイドが必要だからです。自分自身に文化がないと、誰かに依存しないといけません。自分の体験以上にお客さんを感動させることはできません。


ですので、単価アップは自分のためにも大切なことです。そのためには、自ら進化し、文化発信できる立場になり志が重要なのです。



売上=新規客の売上(客単価×客数)+その後のお客さんの利用の度合い+その後のお客さんと自分の成長




#2常識は時代の産物



良い商品開発には、経験曲線のメリットを享受できることが必要です。分かりやすく言うと、売上に比例して増える経費、すなわち変動費を増やさず、かつ、そもそもかかる経費、固定費も増やさないで、経費と増えた売上のギャップを作る商品を開発するのです。



「おいしさがあれば繁盛する」これは食を扱う誰しもが持っている常識です。しかし、あらゆる食べ物が身近なところで手に入る今の時代では、この「おいしさ」という言葉の前に「卓越して感動に値する」という前置きがあってはじめて成立する話なのです。



#3強みではなく弱みで勝負



鮮度が重要な文化というのは、必ず上から下に流さないといけないのです。


ですので、店というのはまず、今までにないものは、新しいものに敏感な文化のある変わり者に流さねばなりません。そして、その人たちに文化発信する楽しさを十分堪能してもらい、優越感に浸ってもらいます。このプロセスで口コミが浸透し、文化として根付いていきます。


繁盛店作りの最初のポイントで、消費者全体の中では変わり者のお客さんの口コミを通して、世の中でおいしいものという常識になっていけな繁盛店は容易にできるのです。



二流店はよさそうなもの同士を組み合わせ、一流の店は意外なものを組み合わせるのです。



一般的に弱小企業や新参者はいいスペースをもらえません、悪い条件下で、数ある埋もれた商品の中から、お客さんの目に止まり、選んでいただくことまでをデザインの中に落とし込まなければならないのです。これは重要な販売術で、ヒット商品には欠かせないポイントです。



自分の知識の基準を相手に押しつけるのは難しい。ここではまず、待つことが大切です。お客さんが新しい文化を取り込むには、加えてタイミングが重要です。早すぎても遅すぎてもよくありません。



今の消費者は、より選択肢が多い場所を選ぶ傾向があります。それは、「その街に出ればなんとかなるだろう」と思って外に出る今時の若者の深層心理を如実に表しています。このタイプの「とりあえず客」は目的意識がありませんので、すぐ忘れてくれるという良さがあります。



#4脚本+演出+役者



『神話の法則』(クリストファー・ボグラー著)という脚本家のマニュアルのような本があります。この本には脚本作りのセオリーが書かれており、ハリウッド映画、特にディズニーなどはストーリー展開においてこのセオリーを踏襲しています。例えば、この著者は、ストーリーの展開は次の12ステージになっていると述べています。


1、日常の世界(映画の始まり方、子供同士が遊んでいるシーンから入る)


2、冒険への誘い(たんすの中に別世界への入り口を発見)


3、冒険の拒絶(誰かにその入り口へ入ることへの恐怖が湧く)


4、メンターが現れる(見知らぬ世界への準備をさせる)


5、第一関門突破(冒険に踏み出し何らかの成功を収める)


6、試練、敵対者(なんらかの成功を収めるとやっかみなどの試練が発生する)


7、もっとも危険な場所への接近


8、最大の試練


9、報酬(第二関門の突破)


10、帰路(この時点でヒーローは完全に危険な状態から脱しておらず、どんでん返しが待っている)


11、復活


12、宝を持っての帰還


この展開を頭に入れて映画を観ますと、いかに多くの作品がこのようなセオリーで進行しているかがわかります。



高級ワインを楽しむことは、歴史を受け継いだ過去と今と未来を結ぶ共有できる価値観を楽しむ文化なのです。文化度がなければ、価値観を感じないのです。ワインのつくり手や関る人は必ずしも、単に儲けを考えて事業としてやっているわけではなく、文化の伝道師というミッションで日々携わっている人も多いのです。



#5ビジネスと人生設計



店の命の源は活気です。明日や先のことなど、何も余計なことは考えず、ただ目の前のお客さんを喜ばすために必死にいろいろなことを考え、その瞬間を繁盛店のスタッフだと思って演じきってもらわないと店は繁盛に導かれないのです。



「あなたが一年以内に行くようになった店で、三度以上行った店はどれくらいありますか?」



「今までお客さんがまた来ないという視点でみたことがありませんでした」



「料理人よ故郷へ帰れ、そして故郷の市場に行き、故郷の人々のために料理を作れ」


商売人にとって大切なのは自らを育んでくれた故郷にあるのではないでしょうか?その縁のあった故郷を豊かにしてこそ、自分の生きていることに対しての恩返しができるのではないでしょうか。



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