9/21/2007
「不良定年」
嵐山光三郎さんの「不良定年」を読んだ。
会社で出世しないことをよし、としている人間は、出世した人間の悲しさを知らない。
役職に見合う仕事をなしとげていくには、万年ヒラ社員にはわからぬ苦労がいる。
長のつく立場で、会社という集団のシステムと感情をコントロールしていくことから、不良定年の道がひらける。仕事ができる男は不良定年をめざす。
自分のことを陰で悪くいっている人に、にこやかに冷静に応対する力が不良のはじまりである。
したがって四十歳の無気力社員には不良になれるパワーはない。自分がするべき仕事を、人の二倍、三倍となしとげてこそ不良的精神力が身につくのである。
人の運、不運は縄のようによじれ、いいことがひとつあれば、悪いことがひとつおこり・・・・。
日本人のほとんどはそんなことは考えず、とりあえず流れるように生きていたんだから、欲望に忠実であった。
自分の欲望をかなえるために汗水流して働いて、酒を飲み、道楽で無駄づかいをした。
会社より世間、億ションより長屋、年金より借金、上り坂より下り坂、スピードより熟練、働きバチよりナマケモノ、孫より自分、多忙より貧乏、再就職より自由時間、背広よりジャンパー、人格者より自分本位、理論より経験、自立より孤立、前むきより後ろむき・・・・・。
東京は、江戸の風物はほとんどなくなってしまったが、不良の道楽者が多いのは江戸時代からの伝統だ。
放蕩しつくした人、律儀で通した人、財をなしたお金持ち、と、年寄りの風体はさまざまだが、古い町を仕切っているのは不良の気配をしょった年寄りだ。
歳をとって、田園や山中に身を隠すのはただのオイボレである。歓楽の色街に身をひそめてこそ、退歩する官能を得られる。
「不良中年は自前のモラルを持とう」と題して。100か条のその前半50を。
①約束した事は、呆けて忘れる(老人は常習犯である)
②借金も、呆けて忘れる(これも常習)
③チャンスがあれば浮気する(一期一浮気)
④馴じみの飲み屋へ行かない(旧縁を切り、慣れあわない)
⑤競輪ざんまい(車券は百円のお遊びで十分。競艇・オートも可。宝くじは買わない)
⑥妻の預金をおろして使う(当然の権利だ)
⑦落ちぶれた同僚にたかる(同情しないことが相手のためだ。同情は命とりになる)
⑧信号は無視する(ただし、周囲をよく見て)
⑨いっさいの謙遜をしない(昔のまんま)
⑩絵手紙をよこす人へは返事を書かない。(それほどヒマじゃないので)
⑪宗教活動に関与しない(無常を知る)
⑫占いを信じない(あたるはずがない。自分の運は自分でひらく)
⑬狡猾であれ(老人が生きていく知恵)
⑭妄想に生きる(想像力を喚起する。俳句もそのひとつであろう)
⑮名声を求めない(なにをいまさら)
⑯権威と無縁になる(断固たる決意で)
⑰不機嫌をよしとする(だってそうなんだもの)
⑱義理の葬儀へは行かない(疲れるだけで)
⑲二律背反を是とする(生きる証し。不易流行でいく)
⑳触覚で価値判読する(女もこれでいくに限る)
21.遊牧民志向(蒸発する力。どんどん家出しましょうね)
22.若い者はだます(手練手管で)
23.子はちょろまかす(お手のもの)
24,ヒューマニズムよりニヒリズム(無神論で自分をクールに見つめよ)
25.淋しさを食って生きる(孤独は老後の栄養である)
26.腕組みしない(服に皺がつくからね)
27,反社会(反骨の精神を忘れずに)
28.風とともに去る(危ないときは、ひらきなおって逃げちゃえばよい)
29.競争しない(わが道をゆき、他者と自分を比較しないこと)
30.全力投球(それなりに)
31.裏道で立ち小便をする(もらすよりいい)
32.平気で泣く(感情は素直に出す)
33.ぼんやりする(休養が大切である。ぼーっとする時間の空漠に身をまかす)
34.とぼける(老人の特権である。具合悪くなったらアクビすりゃいいの)
35.眠る(睡眠薬はアモバンかハルシオン。バイアグラを飲んでセックスすれば安眠)
36.耐える(これも実力のうち)
37.ぐれる(とことん堕ちてみて、地べたより世間を見つめよ)
38.情報収集する(要領よくやりましょう。そのため友人とはまめに会う)
39.昼からビールを飲む(酔っぱらって繁華街を歩きましょう)
40.昼間から風呂に入る(気分がよくなる。近所の銭湯で一番湯につかろう)
41.ナンセンスのセンス(理窟っぽく生きるのは愚の骨頂)
42.ハイカラ主義(身なりをよくするのは、不良定年者の基本的心得である)
43.テーマを持たない(なりゆきでいけ。テーマを持つとインテリに戻って、また企業戦士となる)
44.軟弱にいく(年寄りだから当然のことである)
45.唯我独尊(自分の世界へひたる。うぬぼれてけっこう)
46.自由なる日々(なにやったっていいんだ)
47.風狂でいく(吉田兼好や西行に学ぶ)
48.遊んで暮らす(遊ぶにはかなりの精神力がいる。遊ぶ力が不良老人の存在証明だ)
49.不器用でいけ(それで通用させる)
50.妻より友人(共犯者としての友がいてこそ活力が生まれる)
51.霊界通信(ときには死者との会話。故人の著書を読みかえす。読書は霊界との無線電話である)
52.散歩する(山でも町でも、外国でも)
53.小銭を稼ぐ(なんでもいいから)
54.美的生活(これが余裕というものだ。一輪の野草を見つめよ)
55.命を惜しむ(健康第一だもんな)
56.何者にも忠誠しない(相手にも忠誠を求めないのが礼儀である)
57.ケチ(無駄な金は使わないが、大金も使わない。いざというときは気前よくいこうぜ)
58.後悔しない(宮本武蔵のように、「事において後悔せず」)
59.女の愚痴はきかない(恋人は長くつきあうと妻化して、愚痴をこぼす)
60.男の愚痴もきかない(男の愚痴は女より始末が悪い。無視せよ)
61.軽佻浮薄(日本文化の伝統だから、これでけっこう。重厚な老人はかえってボロがでる)
62.離欲(やりたい欲だけに集中する)
63.感動力(小さいことに感動する精神を持続せよ。有能な企業経営者は高齢でも「感動する力」があるものだ)
64.いたずら心(少年時代に戻る。みんな不良少年だった)
65.老人ルネッサンス(キャリアがあるからできることだ。不良老人の条件)
66.忍ぶ恋(古風にいきましょう。忍ぶところに味わいがある)
67.道楽(最後の遊び。なににするかは各自で考える)
68.ソフト帽を愛用(ボルサリーノ)
69.ないものねだり(快楽の追求。枯れてしまってはいけません)
70.すぐ寝込む(仮病の有効活用)
71.電話には出ない(面倒だから)
72.聞こえぬフリをする(そのくせ地獄耳で情報収集)
73.気弱なことをいう(何しろ高齢なもので)
74.朝顔市へ行く(早起きだから)
75.酉の市へ行く(宵っぱりから)
76.足で物を片付ける(省エネ)
77.ふぐは白子を(神田明神下の左々舎がおすすめ)
78.月見献立(昔の恋人に作って貰いましょう)
79.浴衣で宴会(銭湯に行ったあと、ビール飲んで)
80.桐の下駄で歩く(素足で歩くと血のめぐりがよくなる)
81.飛行機はファーストクラス(国内線ならビジネスクラス。新幹線はグリーン車)
82.きっぷのいい女将がいる温泉のなじみ客となる(上の山温泉の葉山館とか)
83.勝手に講釈(幸田露伴のように近所の者を集めて)
84.バラバラ(意識を混乱させる)
85.お化粧してみる(歌舞伎女形役者をまねて)
86.すべてツケにする(現金は持ち歩かない)
87.インターネットはやらない(できないから)
88.煙草はやめない(そんなの勝手でしょ)
89.猟書三昧(神田・神保町で)
90.銀ブラを楽しむ(銀座の老舗には掘り出しものの極上品がある。クラブだけが銀座じゃないのだ)
91.色街で飲む(神楽坂とかね)
92.茶漬けにこる(JAL国際線のファーストクラスで食べるキャビア茶漬けがうまい)
93.ケンカしてよし(ケンカしてこそ友人である。ケンカをおそれてはいけない)
94.文具に淫する(硯は蘭亭硯)
95.もちろん天動説(地球が回ってたまるか。どこを軸にするかで物事の判断が決まる)
96.遠くへは行かない(面倒だしさ)
97.知らない町は歩かない(自分の住む町が穴場である)
98.言い訳は全力で(すべて人のせい)
99.ゆっくりと急ぐ(開高健氏の流儀で。のこり限られた人生だもの)
100.説明はしない(面倒だから。わかんないやつに説明するだけ疲れる)
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