1/21/2008

佐藤洋二郎








佐藤洋二郎(作家)

先日、電車の中で、まだおさないこどもに、絵本を広げ「お勉強」をさせている若い夫婦を見た。父親は勤め人風だったが、妻が女の子に指示するのをおだやかな表情でみつめていた。中年のおっちゃんのこちらは、なにも子供のうちから、生き方の幅を狭めるようなことをしなくてもいいではないかとながめていたが、電車をおりてからも妙に心がざわつき、大丈夫なのかと心配になってきた。

わたしたちが生きていく自信は「学歴」を身につけることでも、知識があることでもない。自分がやろうとしていることに、どれだけ一生懸命やってきたかのほうが重要なのだ。自分はこれだけがんばったのだからという自信のほうが生きていく糧になる。

親や人様のことを聞いて行動するよりも、好きなことを辛抱強くやることのほうが将来につながる。人生はやる気と忍耐があればなんとかなるものだ。おれはあれだけやったのだからと踏ん張りもする。ひとつのことを懸命にやっていれば、見えていなかったものも突然見えてくるときがある。近頃の若い人たちが堪え性がないもの、なんでも上滑りに生きているからではないか。一芸に秀でることは、どんな職業でも年季がいるが、肝心なおとながそのことを教えなくなった。

あまやかされたり必要以上に手をかけられたこどもはどうなるか。わがままで忍耐力のない人間や、「お勉強」はできても、いざというときに右往左往して、なにもできないおとなになってしまうのではないか。政治家はよく教育論を唱えているが、近頃の親の自信のなさも、政治の無策ではないかとうがった味方をしている。

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