1/26/2008

デジタル音楽の行方/2005年12月














デジタル音楽の行方/著者: デヴィッド・クセック&ゲルト・レオナルト


レコードレーベルが果たせる残された役割は、アーティストが従来のレコード契約を結ぶ際に譲り渡す法外な経済的、芸術的、そして個人的な権利に明らかに釣り合わなくなっている。



いずれはマネージャーがマーケティングからツアーやマーチャンダイジングにいたるまで、ビジネス上の決定の際に中心軸としてもっと大きな役割を演じることになりそうだ。マネージャーの名声と富は直接彼らが手がけるアーティストと結びついているので、マネージャーが指導的な役割を果たすのだ。それはアーティストにとってとても好ましい構造であり、伝統的なレコードレーベルよりもずっと深いレベルの強調関係につながりうる。マネージャーが流通経路、マーケティングの代理店、広報担当者、技術に関する契約、そしてスポンサーを選択するのだ。賢明なマネージャーならば、独立したミュージシャンビジネスとしてアーティストを成功に導くことで新たな音楽経済を成長させるだろう。



人間である以上、そこから生まれる感情的なつながり、つまりトーク番組の訴求力がラジオの魅力を保つかもしれない。ラジオが生き残りたいのなら、音楽やニュースを提供する個人的なつながりを維持しなくてはならないけれども、衛星ラジオネットワークのシリウスやXMラジオが行っているように、デジタル技術も受け入れないといけない。


アーティストがレコードを五十万枚以上売らなければ成功とはいえないという考えは、おおかた音楽企業カルテルが自分達の巨大な間接費を埋め合わせようと広めた奇妙な神話である。
















種を撒いてきちんと手入れすれば、ニッチ市場は非常に儲かる可能性がある。音楽のような無形の商品の場合は特にそうだ。
この分野には、サービスやテクノロジーの企業だけでなく抜け目のない新参の企業家にも大きなチャンスがある。



我々みんなにとって幸運なことに、ひとつのサイズをすべてにあてはめるタイプのマスマーケティングや、世界規模のオーディエンスを相手にする世界規模のスーパースターの時代は急速に終わりを迎えつつある。もうまもなく、流通は――そしてさらに重要なことに、マーケティングも――デジタルな手法に移行するだろう。最終的にはマーケティングは流通と同義になる。消費者はすでに音楽を発見し購入する場所、そして音楽を受け入れる形式にし関してとても多くの選択肢を手にしている。それが音楽を借りるのか、所有するのか、あるいは「失敬する」のかは関係ない。デジタルの力を得た音楽ファンは、ある種の流行の仕掛け人であり音楽ビジネスの活力となる。



 間違いなく、インターネットはオンラインでアーティストを売り込み、アーティストとファンの間の有益な関係を育てる大変効果的なツールである。そのわかりやすい例が、音楽をダウンロードして視聴できたり、CDが購入できるアーティストのウェブサイトである。そこではアーティストの関連商品も販売できる。ウェブサイトはそこで落ち合って音楽についておしゃべりするファンのコミュニティを主催できるし、メーリングリストを運用し、アーティストとファンの間に直接的なつながりを確立する素晴らしい媒体の機能を果たせる。
 ウェブは、アーティストが自分達のキャリアより自覚的にコントロールするための優秀なプラットフォームを提供する。ダイレクトマーケティングを通じて、アーティストとそのマネージメントは、すべての仕事をこなすレーベルの働き詰めのスタッフに頼る必要なくファンにアピールする宣伝活動を管理できる。


 アーティストはウェブを介してツアー、ショー、コンサートの宣伝ができるが、もし会場でアーティストが直接チケットの予約ができれば、チケットの販売さえ可能である。これは一般に大きな会場であったり、主要なコンサートプロモーター経由ではできないが、小規模なクラブやショーのチケットであれば、多くの場合オンラインで販売できる。少なくともショーの宣伝はできるし、コンテストやその他のオファーがファンを引きつける――コンテストのグランプリはバックステージパスが、アーティストに直接会って話をするチャンスが得られるというわけだ。
 当然ながら、インターネットはニッチ市場を対象にするとき最大限の力を発揮する。アーティストがギグで演奏したり、ショーの会場でレコードを販売したり、何らかの草の根運動を起こすことで潜在的なオーディエンスを見つければ、インターネットがこのオーディエンスをターゲットとし、その数を増やすのに利用できる。オーディエンスを知り、彼らの関心を引き、友達に進めるよう促し、似ている他のアーティストを見つけ、そして関係性を広げることすべてが、アーティストのキャリアを前進させる原動力になりうる。音楽が実際に売られる場所は関係ない。だが、アーティストが直接販売すれば、ずっと割がよいかもしれないのだ。



ニッチマーケティングにより、レーベルは小規模なファンに集中して取り組めるようになり、特定のグループのニーズを実現すべく彼らへのマーケティングメッセージに磨きをかけることができる。アーティストとファンの間で個別のアプローチや直接的なつながりを提供するレーベルは、似たジャンルの他のアーティストやレーベルとの相互リンクを検討すべきだ。「友達に紹介(Tell-a-friend)」の署名は、サイトメンバー登録やメーリングリストへの登録を促すインセンティブを与える。あるいはアーティストとのライブチャット、バックステージパス、優先チケット、個人向け商品、衣料品、ポスター、ゲーム、そしてまもなく発売されるアルバムからの曲を含む有料音楽サブスクリプションサイトは、音楽ファンにまったく新しい体験と、企業と消費者の間で強い関係性を生み出すだろう。



皆かつてないほど携帯電話に依存しており、その依存度は増え続けている。携帯電話だけでネットサーフィンできるし、電子メール、テキストメッセージ、スポーツのスコア、そして株式相場のチェック、着信音の取得、画像転送といった幅広い活動に参加できる。オンラインコミュニケーションはもはやコンピュータが独占する領域ではない。情報とコミュニケーションの広大なネットワークが、携帯電話を持てば誰でも利用できるのだ。



自分達の携帯電話のカスタマイズ


持続的な関係性の見返りとして無料コンテンツを提供することは、ミュージシャンとファンの間に直の接触を育む素晴らしい機会になる。これが音楽を売り込む非常に有力な手段になるだろう。



現在大手のレコード会社は、音楽の製作会社というよりも映画の配給会社のような役割を果たしている。新しい音楽を一般大衆に与えるための組織、資本、影響力はあるが、次代のホットなアーティストを自ら開拓する能力はほとんどない。インディーは、明日のスーパースターを試す非常に貴重な場なのである。



「メジャーレーベルはマクドナルドがハンバーガーを売るみたいに音楽を売りたいようだが、我々はそれよりむしろ角を曲がった通りにある小さなグルメ向きのレストランのチェーン店でありたいんだ」とインディーレーベルのアリゲーター・レコードの創始者ブルースイグロアは語っている。「重要なのは料理だ――いくつ料理を出しているかではなくてね」独立レーベルは芸術性でも創造性の面でも新しい音楽最先端にいる。また新しい音楽とは一時の流行ではなく、音楽市場からのもっとも成長率が高い分野である。


音楽は今後ますますデジタルネットワーク上で直接販売、配信されるようになるだろう。今ではオーディエンスに直接手を差し伸べ、インターネット経由で音楽を届けたり、ほぼ毎日新しいサービスが登場するオンラインで、人気が爆発中のデジタル音楽配信サービスを活用できる。さて、もっとも重要なのは忠実なファンや消費者と有意義な関係性を作り上げることである。アイランド・レコードの前社長であるダビット・シガーソンは次のように語る。「支配権が流行の仕掛け人や門番の手から大衆の手に移る傾向が加速している」。



サンクチュアリのビジネスには、レコード音楽、ビジュアルエンターテインメント、アーティストやプロデューサーのマネージメント、ツアーのサポーート、ライブのブッキング、音楽出版やライセンシング、ニューメディア、マーケティングのサービス、レコーディングスタジオ、書籍やDVDの出版、そしてマーチャンダイジングが含まれる。


この戦略はアーティストが長く生き残れる可能性が潜在する。


敬意。 もともと著作権が上げる信条の根本目的、クリエーターの権利と利用者の権利の健全なバランス、そしてフェアユースとファーストセール・ドクトリンに敬意を払わなくてはならない。

共有。 音楽はオーディエンスの間で共有できてしかるべきだ。そのプロセスで実際のメディアファイルをやりとりするかどうかは、音楽を共有するコミュニティの持続可能性に比べれば重要ではない。

携帯性。 人々はますますモバイルになっているので、デジタル音楽もモバイル、かつ「無線」になる必要がある。

透明性。 すべての関係当事者(つまり、消費者、供給者、クリエーター)はどのように利益が分割、分配されるべきかということについて相互理解を醸成し、維持するよう努力しなければならない。透明性がその鍵になる。

公正な価格設定。 音楽製品や音楽サービスは市場主導で、ロケーション、タイミング、アクセスレベル、ユーザーの権利、そして他メディアとの比較価値に関し、常に実際の市場価値に従って価格設定がなされる必要がある。

音楽への容易なアクセス。 すべてのものが常にいかなる場所でも入手でき、どの機器でも再生可能であるべきだ。



我々は未来の音楽企業は、アーティストのマネージメント、出版、ツアー、マーチャンダイジング、そしてレコーディングをはじめとする複数のビジネスに携わるようになると考える。アーティストのブランドがビジネスの原動力となり、アーティスト、企業、そしてファンの間のウィン―ウィン―ウィンの経済状態がリスクを緩和し、投資へのリターンの予測をしやすくする。ごく少数のアーティストの大きなCDセールスに依存する、従来の一割の成功に期待するモデルに賭けるよりも、現在進化中のビジネスモデルならばアーティストをより効果的に市場テストできるので、リスクを複数の収入源や多様な形態の「製品」に分散することで、現在よりもずっと小規模でやっていける。


この新しいミュージシャンのビジネスモデルは、レコードレーベル、マネージメント会社、出版社、そしてマーチャンダイザーの役割を単一の事業体、さもなくばサンクチュアリ・グループのように関連する企業体の集合に結びつける。


企業は、アーティストが原版所有権を保持し、その企業に限られた期間ライセンスのみを与える(リースする)契約をアーティストと結ぶ。アーティストはレコーディングを行ない、企業はそれを固定化されたデジタル形式で市場に出し、販売する製品を作り、マネージメントとライブツアーの手配を行なう。企業はまた契約期間内に書かれた全楽曲の出版社の役割も果たす。これが、アーティスト、マネージャー、レコード会社、そして出版社の利害をすべての収入源を分割する単一の事業体にまとめることで、契約したアーティスト毎の投資に対する
潜在的なリターンを増加させる。このモデルは、新しいミュージシャンに資金を調達するリスクを最小化することで――また潜在的リターンを最大化することで――関係者にかかる制作、流通、宣伝のコストを低減することを踏まえている。


「結局のところクリエイティブ産業は、ことによるとアーティストの収益から手数料を得ることで、配給業者というより宣伝係として活動するという新しい役割に順応しなくてはならないのかもしれない」。



突き詰めれば、デジタルコンテンツに関して一番重要なことは、常に露出の機会を得て知ってもらい、そしてその後でファンをお金につなげることである。これこそ、大半のメジャーレーベルの戦術の中でいまだに手が届いていないように見える重要な課題である。デジタル技術は、料金所の先のほうに動かすわけだ。手前ではない――もし消費者が自分の欲しいものだと十分納得できれば、消費者はいつでもそれにお金を支払う。



http://www.futureofmusicbook.com



Berkleemusic
http://www.berkleemusic.com


音楽が高度に産業化していく家庭であまりにも中間業者の力が大きくなり過ぎてしまい、アーティストと消費者(ファン)の距離が離れてしまっていたのだ 。

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