3/08/2008

「ウェブ時代 5つの定理 」梅田望夫






「ウェブ時代 5つの定理 」梅田望夫



1、アントレプレナーシップ

「アントレプレナーシップ」を支える「常軌を逸した熱」は、「やりたいことをやる」という気持ちと、「社会をより良くしたい」という思いの組み合わせによって持続する。お金が最優先事項では長期にわたってそういう熱が持続しない。倫理性と経済性が融合したシリコンバレーのそんな独特の論理が、仕事の面白さを倍化させ、強い「働く意欲」の源になっている。



2、チーム力

創造性を生むための第2定理は「チーム力」である。どんな優れた人も1人では何もできない。自分にできないことができる人たち、自分にない能力を持った人たちと、どうチームを組んでいかに仕事をするか。ここに社会として組織として創造性を生むカギがある。

突出した一握りの天才だけがユニークな創造性を発揮して、革新的な技術や製品、新しいビジネスモデルをつくり出したわけではない。そこにあるのはワンマン主義ではなく、むしろ透徹したチーム力である。

「強い力を持った個」同士がスポーツ感覚で戦略的にチームを組んで疾走するイメージ。異分野の「その道のプロ」が組むことで相乗効果をたたき出す世界だ。

Aクラスの人はAクラスの人と一緒に仕事をしたがる。Bクラスの人はCクラスの人を採用したがる。



世界を変えるものも、常に小さく始まる。理想のプロジェクトチームは、会議もせず、ランチを取るだけで進んでいく。チームの人数は、ランチテーブルを囲めるだけに限るべきだ。。「世界を変える」イノベーションを生む一番大切なことは、資金でも設備でもなく、情熱を持ったわずか数人の力を結集して爆発させる「チーム力」にある。

高いモチベーションを持続する少数精鋭からチームが成り立ち、目標を共有し、会社や作品の成長を目指し、チーム全員が同じ目標に向かって走る。その幸福感、高揚感から、創造性やイノベーションが生まれるのだ。



3、技術者の眼

21世紀のビジネスは、科学と技術を抜きにして考えることはできない。これまでに述べたアントレプレナーシップとチーム力を、その根底で突き動かしているのが「技術者の眼」だ。

「大きな技術の流れ」に逆らって何かを達成し、短期的にどうにかなっても、長期的には成功を持続できない。そんな経験則が、社会の隅々にまで存在する「技術者」系リーダーたちのすべての意思決定の前提として、根強く存在している。そんな基盤があってこそ、グーグルのようなスケールの大きい創造的イノベーションが生まれるのである。



4、グーグリネス

グーグリネスとは、ウェブ時代をリードするグーグルという会社の気質やグーグルらしさを表す言葉だ。

グーグルの経営・組織・文化における独自の論理は、ここまで取り上げた「アントレプレナーシップ」「チーム力」「技術者の眼(め)」が、高いレベルで統合された最新で最良の実例と言える

オープンソースの世界では、経済的な取引という概念も、雇用関係を基盤とする組織的指示命令系統も存在しない。つまり他者に何かを強制する道具立てがまったくないのだ。にもかかわらず、参加者の自発性だけに委ねられて、大きな価値を生み続けている。インターネットが私たちに突きつけている現代の謎の一つである。

インターネットと情報は、肉体ではなく頭脳の限界を大きく拡張するから、21世紀は「頭脳の拡張」の世紀となる。

となれば、行き着く先は「時間」。「時間」だけが私たち一人一人に平等に与えられた貴重な資源だ。グーグルは「頭脳の拡張」の世紀のリーダーであるとともに、私たちが自発的に過ごす「時間」からしか創造的イノベーションは生まれない、という思想の信奉者なのである。



5、大人の流儀

若い世代への信頼と励まし

インターネットは、特に若い世代の「時間」と「距離」と「無限」についての概念を揺さぶり、人々の世界感覚を進化させている。そんな「時代の大きな変わり目」においては、異なる価値観を持つ世代の間で軋轢(あつれき)が起こりやすくなる。

そのときにいちばん大切なのは、成熟した大人の側こそが若者たちに向け、心が萎(な)えるような言葉を浴びせるのではなく、前を向いて生きる希望を生み出すような素晴らしい言葉を発し続けることである。そのためには、新しい技術や新しい事象を前にして、何歳になっても前向きにそれを面白がる気持ちを持ち続けなければならない。そしてオプティミズムに満ちた未来志向のわくわくする言葉で、若者たちを勇気付け、鼓舞するのである。言葉の力を信じて、大人たち一人一人がそういう営みを続けていくことによってしか、創造的な社会は生まれないと私は思う。



どんな人も最初は何者でもない。グーグルの創業者も普通の大学院生だったし、ジョブズがアップルを始めるときに何の実績があっただろうか。「世界を変える」新しいものを作り出す人は、何者でもないところからいきなり出てくる。それをシリコンバレーの大人たちは皆、過去の経験から骨身にしみてわかっているから、若者たちとの接し方が他の地とは、特に日本とは明らかに違う。

若者たちに志向性の追求と個性の発揮を奨励し、挑戦を促し、真摯(しんし)な失敗に対してはおおらかな態度で接していく。そんな成熟した「大人の流儀」がイノベーションを育む苗床(なえどこ)となるのだ。

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