7/19/2007

21世紀の国富論/原 丈人


21世紀の国富論/原 丈人

アメリカは多民族国家で、人種、国籍、年齢、性別を問わずに、多くの異なる文化的な背景を持つ人々が一緒に働いています。文化が違えば同じ言葉でも意味が違うので、何がいいのかを言葉で説明しても、相手にその真意が伝わないことも少なくありません。言葉は、文化そのものなのです。相手に判断を定性分析的なものから定量分析的なものに変えていくために、さまざまな数字(指標)が採用されました。

グーグルのような企業は、たしかに現在はもてはやされています。しかし、グーグルも次の時代をつくる技術をもっているわけではありません。広告以外の事業モデルがあまりにもないので、企業としての寿命は短いかもしれません。

これから21世紀型の新しいタイプの産業を生み出していく上でも、形のある「物的工業製品」から形のない「知的工業製品」への移行という非常に大きな転換があることを理解する必要があります。この大きなうねりのなかで今、「知的工業製品」を基盤とした新たな戦略が必要とされているからです。

私は、この計算機能を中心にした考え方から相互コミュニケーションの機能を中心とした発想に変えていこうとする潮流が、今後、新たな産業を興すだろうと考えています。

最先端技術の開発は、ただお金が多くあれば成功する、というものではありません。むしろ、無駄なお金を与えずに目標を設定し、クリアしたところで使える資金を増やすという手法が有効です。お金で済ませるという安易な発想に開発チームを導くことなく、制限をかけながら着地点に向かわせていく手綱さばきが重要なのです。

①果たして技術が本当に動くのかどうかという「テクノロジーリスク」
②開発後、実際に製品が市場で受け入れられるかどうかという「マーケットリスク」
①は学術理論からプロトタイプをつくり、試作品をつくるまでの段階。②はサンプルをもって購入してくれる顧客を探してセールスを行う段階です。

現代のベンチャー企業は、ビジョンが資本と出会ったときに生まれます。つまり、新しい技術やアイディアをもった創業経営者と、これを理解して資金を出すベンチャーキャピタリストという二者によってつくられるのです。次世代の技術開発は、アイディアが財務の軸とつながって初めて可能になります。それはいわば、車の両輪であり、どちらが欠けてもいけないものです。

「役職機関説」においては、会長、社長、副社長といった肩書きは、必ずしも上下関係を意味するものではありません。副社長が部長より、社長が副社長より偉いといった硬直的な考え方に縛られず、それぞれの適性に応じて役職を振り分けているにすぎない。適材適所の発想によって、結果として組織全体の効率が向上すればよい、と割り切るのです。これがアメリカのベンチャー育成がもつ特質であり、会社の成長を最適化する上でも重要な要素となります。

「知的工業製品」で求められるのは、より根本的な発想の転換を促すようなインベンション(発明)、そしてディスカバリー(発見)です。ソフトウェアや通信技術、バイオテクノロジーのような産業で不可欠なクリエイティビティは、むしろ、画家や音楽家といった独創性に富んだ芸術家の創造性に似ているのです。

まったく新しい「知的工業製品」を生み出すためには、研究開発などに大きな資本を投下し、長期にわたりコミットする必要があります。研究開発は、すぐに結果が出るような性格のもにではないからです。

中小企業が何か新しいことをやるとするなら、新しい事業形態をつくるべきです。たとえば分社化して、そこに資本を集め、リスクをとって新しい商品をつくっていく。それが出来ない中小企業は、いわば資産のもち腐れであり、発展の余地がないことが、現在の金融システムのなかではますます明白になってきました。

仕事を通じて生きがいを作り、その結果として個人も金銭的な富や社会的充実感を得る。その実現のために会社があります。しかし今、アメリカでは株価を上げる経営者であれば何でもよいという時代になっています。このような手段と目的の取り違えは、人々を不幸にするに違いありません。

PUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーション:pervasive ubiquitous communication)
つまり使っていることを感じさせず(パーベイシブ)、どこにでも偏在し(ユビキタス)利用できるコミュニケーション機能です。
PUC時代においてはマイクロソフトのような独占状態は起こりえません。マーケットはより細分化が進み、それぞれ小さなマーケットでスタンダードを握る企業がたくさん存在するという状況になるはずです。ひとつのソフトウェアでせいぜい10億から150億円といった、小さいけれども面白いマーケットがこれからの中小企業とって活躍の場になっていくでしょう。このようにハードウェアの得意な大企業と中小企業が両方ともに存在し、棲み分けが可能であるという点でも、日本は有利です

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