3/11/2008

江副浩正『不動産は値下がりする!』






江副浩正『不動産は値下がりする!』……神は細部に宿る余丁町散人(橋本尚幸)の隠居小屋 - Blogより

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題名はともかく、面白い本である。実業家の江副浩正だけあってディテールがいい。当たり障りのないようには書いてはいるのだが、ぽろっと本音が出ていたりなんかする。行間を読むべき本。地主を儲けさせるように仕組まれた悪名高き「日本システム」がよくわかる。


備忘録として意訳抜粋:


  1. お上が音頭をとってやる新都市開発は成功しない。ブラジリアを見ればよい。ブエノスアイレスは例外的に成功しているが100年かかった。新都市が魅力を持つのはうまく行って100年先。すでに生活があるところでないと上物を作っても「都市」とはならない。
  2. 容積率の緩和で都市部の「床面積」は爆発的に増える。道路幅による制限(従来0.4掛け)も港区では0.6に緩和された。何れ全区に広がる。
  3. 箱根は行楽地化する方向に行きつつある(地元の旅館組合の意向)。別荘地化することで洗練化し財政改革に成功した茅野市とは逆の方向だ。
  4. 東京23区でも地価が上がるところと下がるところの二極化が進行する。東京というだけで「連れ高」をしていた地域の地価の下落は避けられない。
  5. 田中角栄が「国策」としてすすめた地方大学の乱立が完全に行き詰まっている。教職員組合の抵抗が整理を遅らせているが地方大学の用地は結局宅地などに転用されることになるだろう。これが更なる地価下落を呼ぶ。
  6. 農地への課税優遇措置が結果として農地の宅地化を進行させた。農家は儲かったが膨大な供給過剰を招いた。農協などから資金を借りて建設した郊外の低層賃貸住宅の経営は行き詰まるだろう。
  7. 首都圏の広大な工場用地もやがて商業地・宅地として転用されるが地方自治体のゾーニング規制で進んでいない。これは小規模宅地の固都税軽減措置のため税収が減ってしまうからだが、この軽減措置は賃貸住宅の住民にとって不公平な富裕層優遇措置である。地価税を検討するべきである。
  8. 長期固定金利型住宅ローンのおかげでバブル期に比べ住宅取得コストは三分の一になった。住宅ローンは証券化されて農林中金などに売却されその資金でまた住宅ローンを貸し出すというサブプライムと同じことが日本で起こっている。これが地価を押し上げてきた。金利が正常化されるとこのシステムが行き詰まる。もともと低い金利に下げる余地がないので米国のように金利を下げて対応すると言うことも出来ない。破産する人が増えよう。最終的には国民の負担となる。
  9. 首都圏の住宅供給数は完全に過剰。これだけ住宅供給が多いのに、政府や地方自治体は「ニュータウン」などの公的供給を続けて赤字を膨らませている。天下り先確保のためだけの事業。
  10. もっとも人気のあるエリアでは今後も地価上昇が続く。ロンドンでもニューヨークでも一等地とそれ以外では家賃に50倍の差が付くのが当たり前。
  11. 優良な貸出先がなく、企業の資金需要が少ないため、不動産と住宅ローンにお金が廻りバブル的な状況になっている。
  12. 日本の製造業は10年前にピークを迎えている。これからの日本は沈み行く国とならざるを得ない。国民はもっと慎ましやかな生活をしなければならない。
  13. 日本国債の暴落はいつあっても不思議ではない。昭和55年のロクイチ国債の暴落では100円の国債が74円まで下がった。グローバル化したヘッジファンドの存在を考えれば今度起こると日銀の買い支えは無理だろう。
  14. 金利が上がると(正常化すると)新興デベロッパーは三割値下げしてでもマンションを売り切らざるを得ない(さもないと手形を落とせない)。更なる地価下落となる。
  15. 地価バルブの形成と崩壊は税制が大きく影響している(所得税との損益通算をめぐる日米両政府の動きなど)。
  16. 拓銀問題。そもそも北海道をめぐる構造変化で拓銀の使命が終わっているのに、オペレーションを継続させるためだけにリゾートなどに巨額融資を行い不良債権化した。政策に誤りがあった。現在もまだ同じようなビッグプロジェクトが続いている。何れは国民が負担する。
  17. 日本のREITの収益率がいいのは低金利のレバレッジを掛けているためで、金利が上がると(正常化すると)途端に行き詰まる。グローバルな投資ファンドは日本以外の国に資金を移すだろう。それが地価とJ−REITの下落を呼ぶ。そもそも日本のお金持ちは、J−REITなんかより利回りが高い米国債や豪ドルMMFで資産を運用している。
  18. 日本の中小金融機関がリスクの高いJ−REITや不動産投資に走る理由は、金融機関の数と人が多すぎるから。雇用問題。今後、金融機関からそれ以外にどうやって労働力を移動させるかが課題となる。
  19. 江副氏の同窓会(甲南高校)などで話題になるが、地方出身者でも一度東京で働くと老後になっても東京を離れない。高齢者には都心がいい。

「行間」部分を少し付け足しての抜粋である。つくづく思うのだが、都市サラリーマンが常に被害者であるということ。「人民は弱し、されど地主は強し」なのである。

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