1/14/2008

加藤登紀子







ちょっと古いが、

加藤登紀子・夕刊文化「飾らない言葉 原点に」日経新聞 2006/05/17


私のコンサートで最近、おやっと思う現象が起きています。観客で最も多いのは私と同世代の人。
でも次はストンと飛んで二十代の若者なんです。自分よりずっと年下の若者が来てくれるなんて、なかった。
公演後に観客から回収するアンケートを見ても、全体の三分の一が若者からのものです。
これまでは三十枚あれば、二十代のは一、二枚だったのに。

また、興味深いことに、アンケートを読むと、歌詞に触れた記述が多い。歌詞の裏側に秘めた作り手の
思いを読み取ろうとしている。ステージで歌っていても、聴きどころの歌詞にさしかかると、同世代の人たちに限らず、若い人も引きずり込まれるように聴いています。

私の友人には二十代から三十代の人も多いけど、彼らはこう言います。私の歌だけでなく、浜崎あゆみさんなど最近の若い歌手の曲でも、メロディーではなくて歌詞に耳を傾けている、と。
いま、真実味のある歌が求められているのではないでしょうか。表面的な軽い言葉が飛び交う時代だからこそ、本来の言葉が持つ重みを実感しています。

歌詞の題材は自分の心の中にある。心のふたを開けて、自然と出てくる言葉を見つけます。
ヒット曲を作らなければという意識で歌詞を練ると、つい自分の外側から言葉を探してしまい、うまくいかないことが多い。「ひとり寝の子守唄」や「知床旅情」とか、「私のために作っちゃった」という意識で作った歌は消えずに、今の時代にも残ってますね。
よく「言葉は大事」と言いますよね。でも意味だけが大事というわけではない。自分の体からわき上がった、うそや飾りのない言葉かどうか、その姿勢も大切なんです。歌にしろ日常的な会話にしろ、その人が自分の中から真に発したい言葉であれば、相手にも強いインパクトで入っていく。自分がどうして作詞にこだわるかというと、まっとうに自分の言葉で言えているか確かめるためでもあるもんです。

将来に不安を抱いている人は多いかもしれない。でも、将来の保証なんて、私の若いころも、今の時代もない。
どんな時代も変化して崩れる。だけど、未来に向かって飛び出していける情熱を持つことが大事だ、と言いたいですね。
私は今、とても元気。世の中が転機を迎え、未来が未知数であることがはっきり見えているから、何でもできるとわくわくしています。

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